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2021.06.23

i-nacの先生紹介 頭も身体も全て使って自然に向き合う田辺先生【後編】

先日の前編に引き続き、今回は後編となります。
i-nacの常勤教員としては最古参の田辺先生が、今でも常に新しい知識を吸収し、新しい動きを常にしている、その原動力は何なのか?

ぜひ、前編と合わせてお読みください!

【目次(後編)】

 

田辺先生の自然とのかかわり:研究者から実践家へ

北大で博士号を取得した後、金沢大学の研究員として、今度は里山の生物多様性観測のプロジェクトを企画・提案し推進していました。
そのときに、研究対象として初めて、人為的な影響のある「里山」に触れました。これが横溝正史の小説の世界か!と思いましたよ(笑) そもそも北海道には、「集落」がないので。

i-nac授業内の調査の様子

 

初めて出会った里山は、急速に衰退していました。
その状況を見て感じたのが、長い時間かけてデータを取って、論文を書いて、という一般的な研究のスピード感では、現実の問題を解決できないということ。
その時に、いわゆる大学などでやる学術的な研究は他の人に任せて、自分はこの「里山」における社会課題の解決のために研究・実践していきたい、と思いました。それこそが、これからの世界に必要なことだと。

それで金沢大学を任期途中で辞めて、旧松之山町(現在の新潟県十日町市)にある【森の学校キョロロ】という自然系博物館の任期付き研究員として、研究(理論)と応用(実践)の両立を全力で試行錯誤する2年間を過ごしました。

この施設は、「地域全体が博物館」、「地域住民がみんな科学者」というコンセプトで、研究員の調査結果を、教育、産業、観光にダイレクトに生かしていこうという当時かなり先進的な博物館でした。

i-nacの授業内の調査の様子

 

ここでは2年間働いて、例えば、松之山にあるブナ林を、ほんの16箇所調べただけで4つものタイプに類型できる結果となり、だからそれぞれ違った保全戦略が必要ということを地域の方に伝えたり、里山の恵み案内人の会(通称さとめぐ)というガイド組織の立ち上げや、棚田のオーナー制度などといった、都市部と松之山をつなぐことで観光振興、産業振興につなげる取り組みをもしていました。

キョロロでの2年間の研究員期間が終盤となった12月ころに、たまたまi-nacの教員を募集しているのを知って、「日本にアウトドアの専門学校なんてのがあるんだ!日本も捨てたもんじゃないな!」と笑っちゃいました。そこで幸い採用してもらって、今に至るわけです。後で知ったのですが、応募者20人以上の激戦だったようです笑

 

田辺先生の現在:MURA18(*1)、ノルディックハーフマラソン(*2)を通して、やりたいこと

 (*1:MURA18とは、i-nac周辺地域の山間部18集落を結ぶ非常にハードなマラソン大会です。田辺先生はプロデューサーとして大会を立ち上げており、i-nacの学生が運営を行っています。詳細は【こちら】。なお、2020年大会は中止となっています)

(*2:ノルディックハーフマラソンin Myokoとは、i-nac周辺の里山の道をつなぐ非レースのノルディックウォーキングイベントです。里山の中で、集落を縫って歩いたり、裏山の清々しい森の中を歩いたり、里山の自然環境をフルに生かしたコース設定が特徴です。このイベントも、田辺先生がプロデューサー、i-nacの学生が運営を行っています。詳細は【こちら】。なお、新型コロナウィルス感染防止の観点から、2020年、2021年とも中止となっています)

MURA18やノルディックハーフマラソンで提供したい価値というのは、本当にたくさんあります。まず、運営に携わる学生たちには、卒業後にいろんな地域に行って里山の自然環境を見たときに、ここだったらこんなことができそうだ、という可能性として自然を見られるように、引出しをたくさん持ってほしいという想いでやっています。

学生たちとは、許可申請から広報、協賛集めから報告書作りまで、全て一緒にやっています。自分たちの力で、こんなことができちゃうんだ、と思ってもらいたいですね。

また、両イベントとも、コミュニティビジネスという面があります。今は、大きなお金をかけてビッグイベントをしたり、広く広報したりしなくても、SNS上の仲間で集まって、自前でトレーニングイベントやったり、というのが増えてきています。

自分もトレランやランニングをやっているので、MURA18は、そうした動きの先駆事例として提供するような形で、ランナーのコミュニティに呼びかけました。その結果、全国からランナーが参加してくれているんですよね。イベントなので、お金はいただいていますが。

ただ、MURA18もノルディックハーフマラソンも、里山や自然の持っている可能性の一つでしかないです。
本質的なところでは、「都市」と「農村」の間にある、第3の軸というのを提案していきたいと思っています。

今は、都市とテクノロジーの便利な暮らしと、自然と里山の暮らしや環境が、対立するものとして存在しています。ただ、現状でこれからの社会をどうしていくか、という文脈でなされている議論は、どちらか一方に寄り過ぎているように感じます。

どちらも今既にあるもので、どちらかではなくて、バランスをとっていかなくてはなりません。

都市や文明・テクノロジーのおかげで、安全で健康な暮らしが送れるのは間違いありません。
一方で、人間は自分でエネルギーを作りだすことができませんから、自分たちが生きていくためのエネルギーや材料は全て自然に頼っているわけです。

自然に生きる消費者として、生き物としてのセンス・オブ・ワンダーは確実に必要になってきます
前編にあった話の通り、自然は控えめに言っても90%以上分かっていないわけですから、僕らの住んでいる世界の中で、都市の生活が非常に狭い範囲の理屈でしか成り立っていないことは、認識する必要があります。

その、都市と里山という2項対立したものを包括して、バランスを取りながらより高い次元で融合していくようなこれからの未来の概念は、自分の知る限りではまだ世の中に出てないです。

私は、アウトドアや野遊びといったキーワードと実際の体験をもとに、またi-nacという非常に価値のある学校の教員として、できれば2025年の大阪万博までにまとまった発信がしたいですね。

 

活動フィールドでもある里山での暮らしについて

完全にプライベートなところで言うと、自然がすぐそばにある環境で、薪ストーブのある暮らしがしたかったし、自家菜園もしたかったし、朝起きて家の裏に森があって、田んぼがあって、カエルが鳴いてるような、そういうところで生活したいと思っていて、今はそれがすべて実現しています。その点で、今はすごくハッピーですね。

MURA18に参加してくれたランナーの方々は、住まいは都会で、週末にいろんな農村地域に行って走ってる人も多いです。そういう人たちや、広く一般にも、もっと気軽に、シームレスに、都会と里山・農村を行き来してもらえるような概念を出せていければいいですね。

 

【今回の先生】

教務部長・田辺慎一先生

北海道生まれ。帯広畜産大学山岳部出身。

北海道大学大学院地球環境科学研究科博士課程修了(博士・地球環境科学)。自然資本主義。

生態学の視点から、人と自然の関係をデザイン・提案することがライフワーク。

日本生態学会論文賞 (2002年)、日本森林学会奨励賞(2006年)受賞。

登山、薪割り、自家菜園、山スキー、本厄の年に始めたトレランで runに目覚め、妙高の18の山間集落を駆け巡る超ハードな山岳ロードマラソン「MURA18」をプロデュース。

ULTRA TRAIL Mt.FUJI(富士山周辺の山々を160km走る日本最大のトレイルランニングレース)年代別1位経験有。

ボルネオ島のキナバル山(標高4,095m)を中心とした国際的な生態系観測プロジェクトに参画、現地集落に1年半ホームステイし長期滞在型テレワークを経験。

国際的な生物多様性観測プロジェクト(IBOY:International Biodiversity Observation Year)において、マレーシア、インドネシアでの生物調査、現地スタッフ対象の生物同定トレーニングコースのマネジメント・講師を担当。

ロシア、中国、韓国、日本の里山を対象とした生物多様性観測プロジェクト(SBOY:SATOYAMA Biodiversity Observation Year)を提案、共同研究を推進。

北海道大学低温科学研究所研究員、金沢大学自然計測応用研究センター21世紀COE研究員、総合地球環境学研究所共同研究員、十日町市立里山科学館越後松之山「森の学校」キョロロ研究員を経て現職。

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